演劇祭テーマ

列島の贈与経済

 

 今年の板橋ビューネのテーマは「贈与」である。

 

 東京やソウルのような大都市で生活をしていると、諸島文化の芸能史を置き去りにしているような気がしないだろうか。例えば、都会では演劇は娯楽であるが、大衆性のない演劇というものは「芸術」という体の良い言葉にくるまれて社会的に疎外されたままである。

 私たちは演劇という行為が貨幣経済だけで計れるものではなく、人々が集い、共同体制を形成する契機であるということを、経済性や労働環境という観点から排除してこなかっただろうか。


 我が国は諸島を含む列島で構成されており、北から南まで多様な自然環境と、多様な伝統・文化を持つ世界的にも類まれな多様性に溢れた国である。例えば、儀礼の際に部族の長が富の再分配をするポトラッチのような文化は、諸島文化に深く根付いたものである。

 (西洋)演劇は、古代ギリシアを起源に持つとされるが、古代ギリシア演劇がエーゲ海の諸島との戦争の間に頂点に達したことを思えば、広くオセアニアに所属する諸島の中にだって、私たちのまだ知らない演劇史があるのではないかと想像を働かせることもできるだろう。

 

 演劇と政治は、元来切っても切り離せないものである。政治とは、人が集う場で生まれるわけであるから、見世物もなく、喜びもないような集会というものが、想像できるはずもない。共同体を失った現代人にとって、快楽と結びついた政治は不正以外の何者でもなく、道徳的批判と背徳的な結託が、水と油のように乖離し、一方が「正義」となり、一方が「カルト」となり、両者が混ざり合うポトラッチ的トポスは失われてしまった。

 

 板橋ビューネは、2013年からモダニズム(近代化)の諸問題を扱う演劇祭で、ついに10年目を迎える。これまでに国内の地方都市(札幌、仙台、福島、名古屋、京都)や韓国(ソウル、仁川、富川、礼山)などの各地域とのネットワークを形成しており、その成果も徐々に現れてきている。

 一方で、この10年の間、残念ながら日本は戦争への歩みを止めないままである。増税や社会保険料の引き上げ、企業の内部留保の増大、賃金の停滞は、戦争への道につながっている。今一度、人々が集い、人前で何かを表現する、そのことの意味を考えてみようではないか。